分子分光学 (20250718)
M: 以下は宮本のコメント
- 23S2021:
- ヨウ化メチルについて、3 つの水素が等価となっていてシグナルが 1 本しか出ないとありましたが、条件を変えれば、2 本、3 本と出てくると思うのですが、具体的にどのような条件で 1 本、または複数本出るというかたちをとるのでしょうか? M: 質問文の後半について, むしろこっちが知りたいくらいです. 何を想定しているから, 質問文の前半の様に, 複数本出てくると考えたのでしょうか? //
講義中にも説明しましたが, ヨウ化メチルは
の点群に属する分子です. つまり 3 つの水素原子は対称操作によって互いに入れ替わりますが, ``対称操作'' の定義から, それをする前後で区別がつかないということが言えます (環境から見れば, 三つの水素原子は区別できない). これは裏を返せば, 三つの水素原子の化学的環境が同じ (三つの水素原子が感じる環境は同じ) であること, すなわち遮蔽定数が同じであることを意味しています.//
こういう状況にある水素原子を互いに区別するためには, 化学的環境の違いをヨウ化メチル分子の外に求める必要があります. すなわち, 溶媒との相互作用とか, 試料溶液中に添加された別の分子との相互作用とか. でもそうすると, それはもう孤立した対象分子の性質ではなくなってしまい, 別の現象を観測していることになります.
- 23S2049:
- 遮蔽定数の局所的な寄与である
と
の両方が存在する場合、どちらの寄与のほうが大きくなるのかはどのようにして調べますか。 M: 遮蔽定数は一つの値で, その起源ごとに成分を分けて個別に観測することはできないように思われます. そんな意味で講義で説明したわけではありません. 理論上, 遮蔽 (反遮蔽) には様々な要因があることを数式で表しただけ.
- 23S2050:
- 水素の NMR の標準物質としてテトラメチルシランが用いられていてこの理由は多くの物質よりも低磁場側にシグナルを示すからであると考えられます。そのほかにテトラメチルシランが NMR の標準物質として適している部分を教えてください M: そりゃもちろん, 一分子で多くの水素原子を持ち, それが全て等価と考えられるところでしょう. 安定で, 測定対象となる有機化合物や溶媒と反応しないことも重要です.
- 23S2053:
- 今回の授業で、プロトン NMR の標準化合物には TMS を用いると説明がありました。TMS は比較的安定であり、等価な水素原子が 12 個あるためですが、実際の測定試料として、ピークが負の化学シフトの部分に現れると考えられます。そのような試料のピークをとるとき、TMS の代わりに使用する標準化合物などはあるのでしょうか。それとも負の化学シフトのスペクトルは負のまま利用し、試験法が適していないと判断したときは別な試験を行うようにするのでしょうか。 M: 何を心配しているのか, わかりません. 化学シフトは, TMS を基準としてそこからの差を記録しているだけです.
通常は差が正の場合がほとんどですが, 差が負であっても困ることは無いと思いますが.
そういう例は他にもあると思います. 酸化還元電位は, 普通は水素を基準 (標準水素電極, NHE) としていますが,
場合によっては飽和カロメル電極 (saturated calomel electrode, SCE, 飽和甘汞電極) や Ag-Ag
電極が用いられます. 電位 (ポテンシャルエネルギー) を測定するときの原点 (ゼロの点) を任意に選べることの証左と言えるでしょう.
他核の NMR の場合, それぞれの核種ごとに, 色々な物質の核が, 化学シフトの基準物質として使われています.
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rmiya, 20250830