分子分光学 (20250714)
M: 以下は宮本のコメント
- 23S2021:
- パルス幅はそこまで厳密にしなくても良いとありましたが、全ての測定において厳密にしなくてもいいのですか?厳密にしないといけないような測定はどのようなものがありますか? M: 通常の H-NMR スペクトル (1 次元) なら, 実は積算なしでも十分なスペクトルが得られます.
つまり一発のパルスで (xy 成分を発生させて) 得られる FID を取り込むだけです. この時は xy 成分を生じさせさえすればいいので, パルス幅は特に気にすることはありませんネ.
しかしもちろん, 高度なスピン相関や緩和時間を考慮したスペクトルを得るのであれば, パルス幅や位相操作などをちゃんと行う必要があるでしょう.
- 23S2049:
- 振動磁場を分解することで現れた2つの成分ベクトルのうち、回転座標系でラーモア周波数の2倍速で回転する方の成分は平均化されているとして無視しましたが、この仮定はラーモア周波数が小さいときにも有効ですか。 M: 基準は回転座標系の回転速度です. これはラーモア周波数ですから, ラジオ波による振動磁場の逆回りの成分は必ず 2 倍速になります. //
原点から同じ速さで逆方向に離れていく二つの粒子を考えます. 一方の速度を
とすれば他方は
です. これは原点から見たそれぞれの速度です. ここで一方の粒子に乗ると, 乗った粒子の速度は 0 で, 他方の粒子の速度は
となり,
の値に関わらず必ず二倍速になります. これのどこが難しくて理解困難なのでしょうか?
- 23S2050:
- C13NMR は天然存在比が低い C13 を用いているため感度が低いといえ、スピンエコーを測定するときも S/N 比が低くなると考えられます。測定回数を増やす以外で S/N 比や感度を上げる方法はありますか M: 炭素13 の NMR は, そもそも C13 の同位体の天然存在比が 1 % 程度であることに加えて, 磁気モーメントも水素に比べて小さいので, プロトンNMR に比べて圧倒的に信号強度が弱くなります. そこで様々なテクニックを駆使することになります.
H-デカップリング, 核オーバーハウザー効果 (NOE), 分極移動 などにより信号強度が数倍になるとともに, デカップリングでは C-X のカップリングが消えてスペクトルが単純化され解析が容易になります.
あとはサンプル量を多くとか, もちろん積算も基本ですが, C13 はスピンの緩和時間が比較的長いので回復待ち時間をそれなりにとる必要があるとか, 測定上の注意をいくつか聞いたことがあります.
それ以上は専門じゃないし, 普段使用していないのでわかりません.
- 23S2053:
- 本日の講義の最後に、パルスシークエンスを工夫するという話がありました。そこで、実例として出されたのが90→180に変化させる方法と、口頭で仰っていた180→90→180の方法でした。90→180はスピンエコー法として理解できましたが、180→90→180の方法は最初-zになるだけで、平均の磁気モーメントとしてはx,y方向の成分が無いためにスペクトルとしてあらわれないと考えたのですが、なぜ初めに180°回転のパルス磁場をかけるのでしょうか。 M: これはスピンの緩和時間が問題になります. 初めの 180度パルスで
方向を向いた磁気モーメントは, 縦緩和時間
により緩和します. この緩和の過程で周囲の影響を受けた場合, その情報 (周囲に存在する核スピン, 分子の運動, 等) を得ることができると, 大まかに思っていただければいいかと.
rmiya, 20250830