分子分光学 (20250707) M: 以下は宮本のコメント

23S2021: 
hν = $ \hbar$γB$ _0$ となっていますが、B$ _1$(振動磁場)は NMR で観測される事象にどのような影響をもたらしますか? M: 当然励起の速度に効いてくる. 単位時間当たりの遷移の数が多ければ, 吸収が強いということであり, NMR の信号強度が強いことになる. // 回転座標系におけるベクトルモデルで言えば, 平均の磁化 M を単位時間に倒す角度 (倒す速さ (?)) に関係する. // 23S2050 参照

23S2049: 
ラジオ波をパルスとして照射するとなぜ周波数に分散が生じますか。また、分析に適切な周波数、すなわちそのときのパルスはどのように決定しますか。 M: 有限の時間区間での正弦波 (パルス波に相当) をフーリエ変換すれば, 周波数成分が単一成分にならないのは自明. // 23S2050 参照

23S2050: 
FT-NMRを測定するときに電磁波をパルスとして照射することでスピンを回転させてスペクトルを測定します。そこでパルスを照射する幅はどのように決定されますか M: 試料中の個別の核の磁気モーメントの平均を考え, その磁化ベクトル $ \DS \boldmath {M}$ の経時的な振る舞いを考えます. そのために, ラーモア周波数で回転している回転座標系 (rotating frame) を導入します. 外部静磁場 B0 方向を z として, この z 軸で回転する回転座標系に移ると物理現象は少し見え方が変わります. 個別の磁気モーメントの歳差運動は静止して, それらの平均の磁化ベクトルは z 軸方向を向いています. 外部静磁場 B0 は見かけの磁場により打ち消され, 電磁波による振動磁場 B1 は x 方向からの静磁場に見えます. 振動磁場 B1 と磁化 M は平行でないので, M は x 軸まわりに歳差運動をはじめます. M が +z 方向から向きを変えて -z 方向を向いたときに電磁波を切れば, それは実験室系ではスピンの磁化が反転したことに相当します. 歳差運動の速さは, 外部磁場の強さに依存しますので, 電磁波の強さ (B1 の強さ) とパルス幅 (電磁波の照射時間) をうまく調節すると, 磁化 M をちょうど 180 度回すだけでなく, 90 度回すこともできます. あるいは任意の角度だけ回すことができます. 次に, 磁化 M が xy 平面内に成分を持っているとして, それを回転座標系から降りて実験室系で観測すると, それは平面内で回転する磁気モーメントに見えます. つまり振動する磁場成分が存在しているということで, すなわちそれは電磁波です. この xy 成分は磁化 M が熱平衡状態からズレているから生じるもので, 時間とともに熱平衡状態へと戻り, 平均の磁化 M の xy 成分は減少し, z 成分は増加します (倒れた平均の磁化 M が再び z 方向を向く). これを横緩和 (xy 成分) とか縦緩和 (z 成分) といいます. また検出される信号を 自由誘導減衰 (free induction decay, FID) といいます. 試料が放射するその電磁波 (FID) を検出し, フーリエ変換して周波数成分を得れば, それが NMR スペクトルです. // 教科書的には 90 度パルスを照射するのですが, 実際には xy 成分が充分な強度で存在していればいいので, 磁化を倒す角度は装置や測定条件や試料により適当に決めます. // また, パルス波を用いる FT-NMR ではない従来型の装置を, ラジオ波を連続的に照射し続けるので 対比のために cw-NMR (cw は contenious wave, 連続波) というが, そこではスピンの緩和時間との兼ね合いや, 測定では系を乱さないように小さい摂動を掛けるという意味で, 照射するラジオ波の強度 B1 はあまり強くしすぎないのが普通です. この場合を前述の回転座標系におけるベクトルモデルでいうと, z 方向を向いた磁化 M をわずかに倒し, それが緩和による平衡状態への回復とつりあっているような状況です. このとき B1 を強くしすぎるとスピンの緩和を凌駕し, ラジオ波の吸収が飽和してしまい, かえって信号が観測されなくなってしまいます.

23S2053: 
今回の授業では、プロトンの量子数 mi が +-1/2 の正か負かであるかで、up もしくは parallel か、down もしくは anti-parallel であるかが決定するという話がありました。up と down は見るからにそうであるのがわかるのですが、parallel と anti-parallel は直感に反した言葉です。なにか歴史的な経緯などがあるのでしょうか。 M: 23S2050 で説明する



rmiya, 20250830