分子分光学 (20250616) M: 以下は宮本のコメント

23S2021: 
一電子励起状態の遷移について、直積を計算した結果、全ての場合において遷移が禁制または全てにおいて許容となることは存在しますか?また、それはどのような状況を示しているのでしょうか? M: そりゃ, あるかもしれませんネ. ただそうだというだけで, 特別な状況を表しているわけではないと思いますが. 具体的にそのような状況になったことがないので, それ以上のことは何とも言えません. // 自分で色々と考えてみれば良いのでは?

23S2049: 
基底状態のベンゼンについて、E=α+β の準位から E=α-β の準位へ一電子だけ励起したときの対称性は $ \DS \mathrm B_1u + B_2u + E_1u$ であり、このことは縮重している準位から準位への励起の仕方が 4 通りあることを表していた。これらの既約表現は、具体的にどのような励起の仕方に対応していますか。また、この既約表現の次元の違いは、電子遷移についてどのような意味を持ちますか。 M: 具体的に特定の電子配置で示されるような状態間の遷移ではない. これは例えば多電子原子の問題において, $ p^2$ の電子配置が 1S, 1D, 3P という複数の状態 (電子項) を生じるが, それぞれに個別の電子配置 (またはミクロ状態) を割り当てられないことと同じ. // そもそも二重縮重した分子オービタルの波動関数を一意に示すことはできない. 講義で示した (教科書に記載されていた) 二重縮重した分子オービタルでも, またそれらの任意の線形結合でも, いずれであっても同じエネルギー固有値に対する固有関数になっているから, 分子の中のどの辺に主に存在していた電子が別のあの辺に移動した (電子密度分布が変化した) と明確に言えない.

23S2050: 
ベンゼンの吸収スペクトルの図だけで群論で許容される遷移と許容されていない遷移を見分けられますか M: 群論的な許容・禁制は, かなり強い制限です. 実際の系では ``禁制遷移'' と呼ばれる遷移が観測されることがありますが, これは普通の意味での分子の対称性を考慮するのでは遷移が禁制であるのに対して, 付加的に別の要素の効果を考慮することで遷移が許容になる余地が生まれるということです. そのため一般には禁制遷移の遷移確率は小さいです. 例えばモル吸光係数をみれば, 今回示したベンゼン等の $ \pi$-$ \pi^*$ 遷移は数万から十数万程度ですが, 遷移金属イオンの d-d 遷移では, せいぜい百程度からそれ以下です.

23S2053: 
これまでの講義では、遷移モーメント積分中の O を、電気双極子モーメントの影響が大きいとして電場を用いていました。しかし、NMR の時は磁場を用いると思います。電場ではなく磁場を用いることによって、なにか変化はあるのでしょうか。どちらも変数としては x,y,z のため、あまり変化が無さそうに思えました。 M: 分子の振動スペクトル (赤外線吸収またはラマン散乱) や電子遷移スペクトル (紫外可視吸収) では, 分子内の電子分布の変化が関与していたので, 遷移を引き起こす相互作用としては光 (または電磁波) の振動する電場を考えていました. それに対して核磁気共鳴 (NMR) または電子常磁性共鳴 (EPR, ESR) では, 原子核または電子の持つ磁気モーメントの外部静磁場に対する向きが変化する必要があるので, 遷移を引き起こす相互作用として電磁波の振動する磁場成分の方を考えることになります. このとき遷移モーメント積分は, 始状態と終状態の波動関数としてはスピン関数であって, 空間の三次元の自由度とは別の第四の自由度を持つスピン座標について積分することになります. ちなみに演算子はスピンの昇降演算子です. したがって分子の対称性は空間の三次元の話なので直接は関係ありません.



rmiya, 20250830