分子分光学 (20230417)
M: 以下は宮本のコメント
- 20s2046:
- 群論を用いることで分子の性質等を予測することが出来ると書かれていますが、同じような対象要素の二酸化炭素と酸素で赤外吸収スペクトルが違うのは対象要素以外の要因が関係しているからなのでしょうか。 M: 二酸化炭素と酸素とは分子全体の形は直線形で同じなのですが, 原子数がそれぞれ三原子分子・二原子分子と異なるために, 分子内振動の対称性に差があります. 二原子分子は単に伸縮振動だけですが, 三原子分子の伸縮振動は二種類あって, そのうちの一つの逆対称伸縮振動は分子の永久双極子モーメントが変化する振動ですし, さらに折れ曲がるような振動が可能となっています.
- 21s2006:
- 赤外線以外の波長、例えば紫外線などは温室効果の原因とはならないのでしょうか? M: 温室効果, すなわち温度が上昇するとは どういうことか? //
物質 (分子) が光エネルギーを吸収した後, そのエネルギーはどのように散逸していくのか? 教科書 p.631 や参考書を読んで考えてみればいいのでは?
- 21s2015:
- IR,UV,NMRといった様々なスペクトルを手にした際、チャートの縦軸の分子の応答の表し方が、スペクトルの種類ごとに異なるのはなぜですか。個人的には、統一したほうが見やすいと思います。 M: その測定手法が開発された時の歴史的経緯による慣習でしょう. //
IR と UV-vis はサンプルとレファレンスの光の強度の比を電流として検出し (電気回路または機械的な櫛形フィルタなどを使用), それがそのまま透過率となる. 近年の装置ではコンピュータで対数計算をして透過率を吸光度として記録するのが一般的である. しかし吸光度の大きいところ, 例えば吸光度 2 以上では, 透過光が入射光の 1 % 以下であることに注意しなければならない, すなわち吸光度の値の信頼性・精度の問題. //
昔の cw 型でも FT 型でも同じことだと思うが, NMR の場合にはサンプルとレファレンスという概念がない装置なので, スペクトルの縦軸は単なる横磁化の大きさ, すなわち試料から出てきたラジオ波の強度になる. この強度は装置の様々な設定など (分かりやすいもので言えばラジオ波の強度など) に依存するので, NMR ではスペクトル強度の絶対値に関する定量的な議論は非常に困難である. そういう訳で一枚のチャートに現れる信号強度の相対的な比率を用いたり, 一つの試料を同一の装置設定で経時変化を観測したりといったところか.
- 21s2019:
- 対称要素があるのにも関わらず、光の吸収が起こらないときはあるのか。 M: あります. // 観測する現象によって異なるが, たとえば電磁波の振動する電場成分と分子との相互作用によって電磁波の吸収が起こる場合には, 分子内の電荷が偏るような遷移が許容となる. //
分子内振動と関連した赤外線吸収では, 分子の永久双極子モーメントが変化するような振動が遷移許容であるが, 分子の永久双極子モーメントが変化しないような振動については禁制となる.
- 21s2053:
- 回転と鏡映の2つの操作からなる回映操作を一つの対象操作とするのは何故ですか? M: 講義では C
H
Cl
という仮想的な分子を示しました. この分子には S
という対称要素はありますが, これを説明するために用いた C
と
を持っていません. つまり S
はそれ自身で独立した一つの対称要素だということです. //
別の説明としては, 例示した分子の四個の H に, 順に 1〜4 の番号をつけることを考えます. この番号付けは, 例えば 1 番をつける H は四つの可能性があり, それぞれについて右回りか左回りに 2〜4 をつけることができ, 結局番号の付け方は 8 通りあります. この 8 通りの番号の付け方から適当な一つを選び, これを他の 7 通りの番号付けへと単一の対称操作で変換するためには S
が必要です. //
もちろん別の仮想的分子 (平面型のシクロブタン) C
H
については, S
, C
,
の三種の対称要素の全てをそなえています. これはもちろん二つの分子の対称性が異なっていることを意味しています. //
分子の対称性を考えるときに用いられる ``点群'' の他に, 結晶の対称性を考えるときに用いられる ``空間群'' というものがあります. こちらでは, 回映軸 (
C
) ではなく 回反軸 (
C
) を独立した一つの対称要素として用います. そういう習慣なのだから仕方がない.
rmiya, 2023-04-24