分子分光学 (20200704) M: 以下は宮本のコメント
16s2008: 
水分子の振動の対称性は $ Γ = 2A_1 + B_2$ であるが、この $ A_1$ が 2 つあるという事はどういうことか M: 言葉通りの意味で ``$ A_1$ 対称性の振動が 2 個ある'' という意味だが, それが何か? // 教科書 13 章の p.557 の上の図を参照. OH の対称伸縮振動 (symmetric stretching) と変角振動 (bending) の二つが $ A_1$ 対称性の振動であり, OH 逆対称伸縮振動 (asymmetric str.) が $ B_2$ 対称性の振動である. // ``逆対称伸縮振動 (asymmetric str.)'' という呼称について, asymmetric を語源的に考えれば, symmetric を否定しているので非対称になるのかもしれないが, 実際の振動モードは $ B_2$ の対称性が *ある* ので, 非対称には違和感がある. 実際に, ある対称操作に対して $ -1$ の指標を持ち振動の位相が反転するので anti-symmetric と言いたいところだが, 英語の用語は asymmetric が使われている. 対する日本語の用語は 逆対称 が使われている. これは慣習なので仕方がない.

16s2043: 
遷移モーメント積分の説明で調和振動子の二次曲線を用いていましたがなぜですか。 M: 振動の話をしていたから. // 振動運動の基本である調和振動子についての復習が必要なのでは?

18s2045: 
1) 直積で表現された表現行列が例えば 3 つの場合はあるのか。 // 2) 直積で表現したときに出てきた 2 つの行列のうちの 1 つは、基底を原子と置いた時のものと必ずひとしくなるのか M: 1) 表現行列が 3 個とは, 何の話か? 表現行列は, 表現の数×対称操作の数 だけあるのでは? // 数学上での話なら, いくつでもあるのでは? 整数の因数分解みたいなものか? 全てに物理的な意味があるかどうかは知らないが. // 2) 自分で考えてみればいいのでは? 点群における対称操作の表現行列の単純指標に寄与するのは, どの原子か? それがどのように数式で表現されるか? // 分子内振動とは別の問題の時には, どうなるかは知らない. 自分で考えてみればいいのでは?

18s2051: 
電子遷移や項間交差について, 本来禁制であるはずの遷移が起こることがあるが (ラポルテ禁制がわずかに許容されたりなど)、似たように IR、ラマンの活性、不活性が何かしらの要因で変わることはあるか。 M: そもそも ``禁制遷移'' という言葉自体が, ``遷移禁制なのに遷移が起こる'' ことを述べていて, 矛盾を内包していて面白い. これらは, 第一次近似としては変数分離されていると考えているものが, 種々の作用によって本当はわずかに結合があって, そのために断熱近似が破れる, といったような描像で理解される. 項間交差については スピン・軌道相互作用, ラポルテ禁制については 振電相互作用, などの相互作用が考慮されることにより, 遷移双極子モーメント積分が完全なゼロではなくなるからとまとめられる. // IR や ラマン散乱の活性・不活性が変わる要因として考えられるのは, 何らかの要因による対称性の低下 (ヤーン・テラー効果とか?) とか非調和項の影響なんかが, とっさに思い付く.



rmiya 平成32年7月6日