プログレス物理化学 II (20141017)
M: 以下は宮本のコメント
- 12s3033*:
- なぜ軌道が混成するのか. M: 異なる対称性を持つ波動関数は, 決して混合することはありません. 逆に, 同じ対称性を持つ波動関数は, 混合する可能性があります. 可能性だけで, 実際に混合しなくてもいいじゃないかとも思われるかもしれません. しかし一般に, 考えている状態は原子の固有状態ではないので, 一つの原子オービタルだけでは表現できません. それは複数の原子オービタルの混合状態として表さざるを得ません.
- 12s3035*:
- 今回
Be-H で計算しましたが, もう片方の H による影響は そんなに少ないのでしょうか. M: いいえ, もちろん大きいです. 分子軌道は, 三つの原子の原子軌道を使って記述されなければなりません. その意味で, 混成軌道はカノニカルな (正準な) 軌道ではありません. (分子軌道はカノニカルな軌道です.)
今回示した混成オービタルは, ``(分子の幾何学的な構造を念頭において) 片一方の Be-H 結合を考えたときに, Be のどんなオービタルの寄与があるために, あのような (直線形の) 分子構造になっているのだろうか?'' ということに対する一つの答えです.
その意味では, 混成オービタルとは原子オービタルの変種の一つであると言えるでしょう. //
一方, 分子オービタルは分子全体に広がっており, 例えば Be-H の
結合を考える場合, 二つの Be-H 結合の混合を考えなければなりません. そしてそれら二つの Be-H 結合が等価であることから, 分子オービタルにおける寄与は等しくなっているはずです.
- 12s3036*:
- s/p ratio のような混成軌道においての比が等価にならないことはあるのか? またある場合 どのようなことになるか? M: 基本的には, ``複数の異なる原子オービタルを混ぜて使って等価なオービタルを複数作る'' のが混成オービタルです. sp
や d
sp
の混成オービタルも, 正四面体または正八面体の対称性を持っています. すなわち向きは異なるが, それ以外は全く等価なオービタルを 4 または 6 個作るわけです. //
例えば四角錐形 (ピラミッド形) の分子構造をとる (中心原子は四角形の底面から少し上に持ち上がっているものとする) 場合には, 中心原子は 5 個の頂点 (幾何学的に等価でない ax と eq を持つ) へ向けてのオービタルが必要です. この場合も用いる d オービタルを上手く選べば, 等価な 5 個の混成オービタルを作ることが出来ます (d
p
). またこの時, 用いる原子オービタルの選択がまずければ, 等価な混成オービタルを作ることは出来ません.
- 12s3040:
- 有機・無機の化合物, 高分子などに金属の様なバンドを持たせることは出来るのか. M: 白川先生の導電性ポリマーやグラフェンなんかは, バンドを考えてもいいのではないでしょうか.
- 12s3045+:
- 混成軌道において, オービタルの安定性に最も影響を及ぼす事柄は なんですか. M: ``オービタルの安定性’’ というのが, 何のことだか見当もつきません. 12s3036 でも述べたように, 混成軌道は互いに等価な軌道を作るのですから, どれか一つが特別に安定というわけではありませんし. また混成軌道の実在性という意味であれば, これは実在しません. 例えば教科書 p.422 の XPS スペクトルに示されているように, メタンの等価な 4 つの sp
混成軌道ではなく, カノニカルな (正準な) 1t
および 2a
オービタルからのイオン化が観測されています.
- 12s3047:
- 教科書 p.379 の図 9.19 について, 主量子数 1 の 1s
H 軌道のエネルギー準位が, 主量子数 2 の 2p
F 軌道のものよりも大きくなっているのはなぜですか? M: 実際にそうだから. H 原子番号 1 であり F は 9 なので, 核の電荷が異なる.
例えば 2p 電子に対して Slater の規則で有効核電荷
を求めると,
となります. 2p 電子が感じる核の電荷が 1 (H の 1s) よりも大きいことから, 電子のエネルギーはより低いことが理解できるのではないでしょうか.
教科書 p.378 にもフッ素のオービタルエネルギーとして 2s と 2p に対してそれぞれ
,
という値が記されています. これは水素の 1s の値
よりも低い.
- 11s3013:
- 二原子分子が結合を作るとき, 結合性軌道の
結合と
結合のエネルギー準位が,
結合の方が高かったり,
結合の方が高かったりと違う場合がありますが, 何故ですか. (例えば Li
と O
の 2p 軌道同士の相互作用において) M: 教科書 p.369 の図 9.13 で, 窒素と酸素の間で分子オービタルの順序が入れ替わるところがある話ですね. これはむしろ, Li から N までは 2s と 2p とが近いため (相対的に 2s が高い), 2s による
と 2p による
とが相互作用した結果, 2p による
結合のオービタルが押し上げられたと考えればいいのではないでしょうか.
- 10s3042:
- 5 つ以上の hybrid orbital を 1 つの原子が持つことは可能ですか. また, 可能ならば 5 つめ以降の hybrid に使われる軌道はどの軌道となるのでしょうか. M: 12s3036 のコメント参照
rmiya, 2014-11-27