プログレス物理化学 II (20121214)
M: 以下は宮本のコメント
- 10s3003:
- NMR は外部磁場を強くすればするほど感度が上がりますが, 現在の技術ではどれくらいまで外部磁場を強くできるのでしょうか. M: JEOL の Web サイトによると, 最高 920 MHz の装置があるようです. 正確な外部磁場の強度は, このプロトンの共鳴周波数から計算してください. …おぉ, Bruker の製品では 900 MHz が最高なのか. いずれにしても 21 T を越えるレベルですね. 研究レベルの試作品では, もっと上もあるかもしれませんが.
- 10s3010:
- 相似変換
には, 例えばどのようなものがありますか. M: 線形代数の本で ``相似変換'' について調べてみればいいのでは? //
直交変換 (ユニタリ変換) では, 変換行列が直交行列 (ユニタリ行列) です. これらに対して相似変換では, 変換行列
には特別な要請はなく, 単に正則で逆行列を持つことだけが必要とされます.
- 10s3018:
- サンドイッチ化合物のアリールは自由に回転することはできますか? M: 例えばフェロセン Fe(C
H
)
について見てみると, Cp 環の回転障壁は 4 kJ/mol 程度だそうで, かなり低いといえそうです. また, Cp 環の一ヶ所をアセチル化した誘導体の
H- および
C-NMR を見ると, 無置換側の Cp 環のプロトンまたは炭素の信号が 1 本しか見えない, すなわち確かに早い速度で Cp 環は回転しているようです (Web 上で見つけた UCLA での講義資料より).
- 10s3020:
- 点対称操作の回転操作として 5 回回転が対称要素として存在しないのはなぜですか? M: は? ``点対称操作の回転操作'' って何ですか? // フェロセン Fe(C
H
)
の点群は?
- 10s3023:
- [CpMX
みたいな図は省略] この五員環と金属はどのような結合をしているのですか? M: [今日は シクロペンタジエニル アニオン が大流行 (笑)] フェロセンの場合, ルイス構造的には, Cp 環が金属イオンの配位座のうち 3 個を占有し, π系の 6 電子を供与すると考えると, 中心金属イオン Fe(II) についてちょうど 18 電子則が成り立っている (ただしもちろん Cp については
構造の場合). CpFe(CO)
なんかも同様 (残念ながら CO の数は, 図示されたように 4 個ではなく 3 個なのだが). フェロセンの Cp 環と Fe とからなる MO については, R. Hoffmann らの論文があるようです (巽先生の本より).
- 10s3028:
- 不斉炭素がなくても光学活性の物質があるとおっしゃいましたが, どの様な分子があるのでしょうか. M: なぜ自分で調べてみようとしないのでしょうか? // 有名なのは ヘリセン (helicene). ぁっと, 野依先生がノーベル賞を受賞した BINAP 錯体にも不斉炭素は無い.
- 10s3029:
- 可約表現をブロック対角に変換することは 行列計算を楽にする他に どんなことに役立つんですか. M: ある可約表現に, どの既約表現がいくつ含まれるかは, とても重要です. 分子の対称性に基づく群論的考察の多くは, 基本的にはこの簡約だと言っても過言ではないでしょう.
- 10s3036:
- 対称操作の i と S
は同じ操作のように思えるのですが, もしそうなら, i は何のために存在するのですか. M: 対称操作 S
の定義にてらして考えれば, i
S
であることは確かです. どちらの名前で呼ぼうが, 本質的には変わりません. 好きな方で呼べばいいのでは? ただ, i という固有名がついていて, 一般にはそちらの方が通用しているだけですね. 同様に S
にも
という別の名前がある. S
や S
という名前を用いるのと, i や
を使うのとでは, どちらがわかりやすいでしょうか?
- 09s3040:
- なぜ
より
を優先して考えるのですか. M: そういう規則なんだから, しょうがないですね. 場合によっては
は複数存在するのに対して,
はそれが存在するなら唯一個しかありえないから, 後者の方が偉い (?) のかも ;-)
Ryo MIYAMOTO, 2013-01-15