プログレス物理化学 II (20121109) M: 以下は宮本のコメント
10s3003: 
x 線構造解析で電子密度が高いものを同定することに便利であることはわかりましたが, 逆に電子密度が低いものを同定することが簡単にできるものはありますか. M: たいていの測定方法は, 何かがあることを検出するものなので, 何かが無いことを検出するというのは, 珍しいのではないかな.

10s3008: 
MO 法の種類が多くて違いが理解できなかったのですが, 何故こんなにも種類があるのですか? そして, 半経験的とはどういうことですか? (授業中に既出かもしれませんが.) M: 前回から今回の前半までで紹介したように, 分子軌道法と一口に言っても, 考慮すべき要素がたくさんあるわけです. で, それぞれに応じて, 計算結果の信頼性や正確さ (現実世界・実験結果にどの程度忠実か) あるいは計算のコスト (時間や労力) が違います. 多種の MO 法といっても, 全部が同時にできた訳ではなく, それぞれの時代に使える計算機資源の能力に応じて, 徐々に近似を高め, 精度を向上させ, 普及し, 発展してきたわけです. 選択肢が豊富な現代では, 結果の信頼性と計算コストなどから, 必要に応じて手法が選択されているようです. 実験研究者が, 目の前のパソコンで, すぐに答えを知りたい, 等のときには, 半経験的手法 (MNDO レベル) が現在でも使われることがあります. // 半経験的手法とは, 分子積分をパラメータとしておき, 計算結果 (主に生成熱) が実測値を再現するように, それらの値を決めている方法です. 経験的方法はもっと直接的で, クーロン積分の値をイオン化ポテンシャルの実測値とする, 等のようにパラメータの値に経験値 (実測値) を当てます. 非経験的方法は, これらのような経験的に決められるパラメータを使わずに, 全部の積分の値を理論的に計算します. しかし, 基底関数 (波動関数) をどうするかについては先験的に決定する方法はなく, 必要な計算精度と計算コストから妥当なところが選ばれます. ここで適切な基底関数の選択をするためには「経験」が必要だというのが, 有名なジョークです :-)

10s3010: 
経験則というものがありますが ``法則'' と呼ぶにはどのような基準があるのでしょうか. M: 言葉の意味が分からなければ, 辞書を見ればいいのでは? 導かれたのが経験的であろうが理論的であろうが, 法則は法則でしょう. 量子論の創世期で言えば, ウィーンの法則というものがあり, それは輻射の強度が最大の波長と温度との関係を記述しています. これは当初は全くの経験則でしたが, 今ではプランクの黒体輻射の式から理由付けされます (導出できます).

10s3018: 
どの MO 法を用いるかを, どうやって決めているのですか? M: 10s3008 参照

10s3020: 
宇宙でたんぱく質の実験をしていますが, 他に化学と関係のある実験は何かしていますか? M: NASA の Web サイトに情報が出ているのではないでしょうか. 医学・生物学に関する実験や材料・物質科学に関する実験に限らず, 広範な実験研究が多数おこなわれているようですが.

10s3023: 
光学異性体 (アラニンなど) の赤外吸収スペクトルは, 何が原因で, 透過率の差が出来るのですか? M: 光学異性体には円偏光二色性がありますので, 円偏光している光源であれば, 赤外線についても L 体と D 体とで透過率に差が出来ることは理解できます. 偏光していない光源であっても, (光を鏡に反射させるなど) 分光器の光学系の都合で, 偏光特性が表れてしまう可能性はあります. しかしこれは直線偏光なので, 光学異性体とは関係ない. 試料が結晶であれば, D 体 (または L 体) とラセミ体とでは, 分子のパッキングがことなるだろうから, 透過率に差が出来てもおかしくはない.

10s3026: 
いろいろな MO 法があることがわかったが, 現在の研究で主に使われている MO 法はどれなのか? M: 10s3008 参照

10s3028: 
現在最も分子軌道法で正確な近似法は何ですか, また, その精度はどれくらい正しいのですか. M: 書籍や論文は, 書かれた瞬間から古くなるので, ``現在最も正確な'' という点では研究の最前線を追っかけしてください. // また, ``精度の正しさ'' とは, どういうことですか?!

10s3029: 
分子はそれぞれ固有の振動をしていますが, 赤外線の吸収は, 双極子モーメントが変化する場合に生じるとあるんですが, これはなぜですか? M: 一様な電場中に置かれた双極子モーメントは, その電場と双極子モーメントの内積に比例するポテンシャルエネルギーを持ちます. そして分子の固有振動によって, 双極子モーメントは周期的に変化します. 一方で電磁波 (赤外線) は, 振動する電場です. これらの二つの振動が共振すると...

10s3036: 
最近の化学分野の論文を読みたい場合はどうすれば良いですか. M: 別に. 図書館または教員に相談すればいいのでは?

09s3040: 
``汎関数'' とはどういうものですか. ``関数'' とは違うものですか. M: 言葉の意味が分からなければ, 辞書を見ればいいのでは? // 普通の ``関数'' は, 変数に値を代入すると, 関数の値が得られます. すなわち引数として数を取るわけです. 一方で ``汎関数'' は, 関数の関数とも言われるように, 引数として関数をとるものです. すなわち, エネルギーは電子密度の関数になっており, その電子密度は位置の関数であるというわけ.



Ryo MIYAMOTO, 2013-01-15