プログレス物理化学 II (20121019) M: 以下は宮本のコメント
10s3003: 
立体視で分子の構造をみたりしますが, どのようなしくみで立体的にみえるでしょうか. 自分でも簡単につくれるんでしょうか. M: 単眼の右目と左目とでは, 実は微妙に異なる景色を見ています. それを頭の中で合成して認識することにより, 立体視していると言われています. そこで, 右目用と左目用の画像の二つの画像を用意し, それぞれの目に見せるようにすることで, 平面の図像であるにもかかわらず立体的に感じることができます. カメラで写真をとる場合には, カメラを二台並べて撮影することになりますが, CG などでは視点を横に少しずらした二つの画像を描かせることになります. 分子構造のデータ (PDB 形式のファイルなど) を表示する PC のソフトには, そのような 3D 表示させる機能があるものもあります.

10s3008: 
等核二原子分子と異核二原子分子において, 1s 軌道が化学結合に関与しない場合, エネルギーは変化するのですか? (例) HF の F と F$ _2$ の F の 1s 軌道ということです. M: 化学結合に関与しない, すなわち相手原子の AO との相互作用がない場合には, エネルギーが変化する理由がありませんネ. しかし現実には, ごくわずかとはいえど原理的に相互作用はあるので, 非常にわずかながらエネルギーは変化しているものと思われます. 章末問題 9.28 によれば, まさに HF と F$ _2$ における F の 1s 軌道について, そのイオン化エネルギーが 66.981 MJ/mol と 67.217 MJ/mol のように異なることを示しています. Cox の本にある解答では, その原因を F 上の電子密度が異なり核の電荷の遮蔽の程度が異なるからだとしていますが, これは別の言葉で言えば, 電子が感じるクーロンポテンシャルが異なるということであり, すなわち軌道エネルギーが異なることになりますネ.

10s3010: 
引力はなぜ働くのでしょうか. // 分子の構造を調べる方法として何があるでしょうか. M: 赤い糸で結ばれた二人は離れられませんが, これは二人の間に引力が働いているとみなすことも出来ます. 一方でそのような直接の接触がなくても, キャッチボールを続けていれば, これまた二人は容易には離れられません. 現在知られているいわゆる四つの力 (電磁気力, 弱い核力, 強い核力, 重力) は, いずれも力が働く二つの粒子間で, それぞれの力を媒介する粒子が交換されているという風に理解されています. 素粒子の中のゲージボソンといわれるグループの粒子がそれです. // もちろん見るためには, 分子に光を当てて, 透過または反射 (散乱) されてきた光を検出します. 各種の分光学的方法や回折法ですね.

10s3018: 
H$ _2$, D$ _2$, H-D で 結合エネルギーは変わりますか? もし変わるとしたら, なぜですか? M: 化学的性質は同位体間で変わりがないと, 初級の化学では習います. しかし量子化学を勉強した私たちは, 結合エネルギーのイメージについて, 新たなものを持っているはずです. それはつまり, 教科書 図 9.9 のポテンシャル曲線において, 結合状態をあらわす曲線のポテンシャルの最小値と核間距離が無限に離れた時のエネルギーとの差が解離エネルギーです. さてこのポテンシャル曲線は, 核の同位体置換に対してどのように振る舞うでしょうか.

10s3020: 
異核二原子分子の LiF の話で $ \Delta E /$   eV$ = -5.3 - (-19.9) = 14.6$ と大きい とあったのですが, 大きい値だとどうして決めれるのですか? M: 確かに大小は相対的な評価です. そこで, 原子・分子の関与する事項のエネルギーと比べてみてはいかがでしょうか. 1 eV = 96.48 kJ/mol ですので, 例えば単結合をしている Li$ _2$ や F$ _2$ の結合エネルギーがそれぞれ 105 kJ/mol, 154 kJ/mol である (表 9.2) のにほぼ匹敵します.

10s3023: 
工場事故などで, 薬品の取り違い (注文間違い) による事故を, たまに見かけるのですが, 研究室でこのような事故が起きないようにするために, どのような対策がとられていますか? M: 使う人が, その試薬が何であり, どんな性質を持っているかなどを把握するようにするしかなさそうですね. それぞれの研究室では, 関連して, MSDS を適宜参照できるようにしているはずです.

10s3026: 
ポーリングの電気陰性度の式で, 無機化学では $ \displaystyle (\chi_A - \chi_B)^2 = D_{AB} - \sqrt{D_{AA}D_{BB}}$ [$ D_{AB}$ 等の説明は省略] と習ったのですが, これは $ \displaystyle \chi_b - \chi_a \propto \sqrt{\Delta_{a-b}}$ と同じ意味になるのですか? M: 原田著 量子化学(上) 裳華房 p.318 によると, $ \Delta_{a-b}$ を結合エネルギーの実測値を用いて評価して, 後者の式に到達するようです.

10s3028: 
混成軌道で, 2p から 1 つ 2p$ _z$ に電子を移すエネルギーはどこからくるのか. M: 2p から 2p$ _z$ に移す??

10s3029: 
混成軌道は sp$ ^3$, sp$ ^2$, sp 混成などがありますが, 軌道間のエネルギーが近かったら pd 混成ということは可能なんですか. M: 可能かどうかは, エネルギーの近さも重要ですが, 対称性もまた重要です. // さて, pd 混成というものは聞いたことないのですけど, p と d との混成を含んだ d$ ^2$sp$ ^3$ や dsp$ ^2$ は, それぞれ六配位八面体や平面四角形構造の中心原子の混成状態として考えられています. 例題 10.2 も参照.

10s3036: 
時間に依存するシュレーディンガー方程式は, どのようにして導出するのですか. M: § 4.4 をよく読め.

09s3040: 
教科書には sp 混成軌道の例として Be, sp$ ^2$ の例として B が載っていますが, 初めて混成軌道の概念を思いついたのは, どの原子の結合を考えていたときなのでしょうか. M: 初めて思いついた人に聞けばいいのではないでしょうか? :-p



Ryo MIYAMOTO, 2013-01-15