分子構造論 (20100728) M: 以下は宮本のコメント
08s3002: 
簡約された $ \displaystyle \psi_{B_g}$, $ \displaystyle \psi_{A_u}$ はそれぞれ $ \displaystyle \psi_{B_g} = 2 (\chi_1 - \chi_4)$, $ \displaystyle \psi_{A_u} = 2 (\chi_1 + \chi_4)$ とありました. しかし, 次の説明には $ \displaystyle \psi_{B_g} = \chi_1 - \chi_4$, $ \displaystyle \psi_{A_u} = \chi_1 + \chi_4$ とあります. また, 説明で係数 2 を与慮[原文ママ]すると $ \displaystyle \psi_{B_g} = \chi_1 - \chi_4$, $ \displaystyle \psi_{A_u} = \chi_1 + \chi_4$ となるとありました. 係数 2 を与慮すると, $ \displaystyle \psi_{B_g} = 2 (\chi_1 - \chi_4)$, $ \displaystyle \psi_{A_u} = 2 (\chi_1 + \chi_4)$ となるのではないのですか ? M: すみません, ``与慮'' の意味がわかりません. また ``簡約'' の言葉の使い方が変だし, ``ありました'' って何処にあったのよ ? と思ってしまいます. // ここでは関数の対称性にのみ興味があるので, 係数が簡単な整数になるほうが, 見やすくて分かりやすいでしょ. 最終的に規格化定数で調整できるところですから, 定数倍にこだわっても意味はありません. ある固有関数の定数倍は, やはり同じ固有値に属する固有関数ではあるが, これらは独立なものではない. 教科書 (12.32) 式では $ \displaystyle \frac{d_j}{h}$ という係数が頭についているが, 次ページの (12.33) などでは, $ \propto$ としてしまっている (笑).

08s3011: 
対称心を持つ分子で相互禁制になる分子はありますか ? また対称心をもたずして相互禁制になる分子はありますか ? もし存在するならば どうしてそのような事がおこるのですか ? M: 後半の質問については, 指標表を眺めてみてください. 点群によっては, 対称心が無くても, 一次の基底と二次の基底に共通する既約表現がないものもあります (どれでしょう ?). また一部だけが共通している場合にも, その共通の表現に属する振動モードを持たない分子の場合には, 相互禁制になるでしょう. // 前半の質問は, 授業中に CO$ _2$ の例を示しました. 他にも適当な分子を考えてみてください (期末の課題を考えてみてください).

08s3017: 
分子に, より強い電磁波を当てると, どんな興味ある結果が得られますか ? M: 光と分子との相互作用を考えるとき, 普通は光は弱いもの (摂動) として考えるのですが, 強い電磁波の場合には摂動とは言えませんね. そこで高次の効果, 例えば多光子吸収とかが起こる, ということになります. 他にも興味深い現象が起こると期待されますので, 色々研究されていると思います. 調べてみてください.

08s3021: 
行列の直積は, $ {\bm A} \otimes {\bm B} = {\bm B} \otimes {\bm A}$ という交換則が成立しますか. 交換則の成立する・しないは, 分子の対称性を考える上で, どのような影響がありますか. M: たぶん交換則は成り立たないでしょう. 要素の並び順が変わりますから. しかし指標を考えるときには対角和をとりますから, 交換則が成立しなくとも影響はありません. 詳しくは線形代数の本を見てください.

08s3028: 
m,p 行 n,q 列の 4 次元のベクトルが出てきましたが, 現実に 4 次元という空間がないのに 4 次元が出てくるのはどういうことなのでしょうか. M: え ? 相対性理論によれば, われわれの住む時空は 4 次元ですけど ...... // また例えば, ベンゼンのπ電子軌道を扱うときは, 基底関数として 6 個の AO を考えるので, 6 次元の世界を扱っているともいえるのですけど. 量子力学は, n 次元複素空間 (n は∞もあり, 3 にコダワラナイ) の線形作用素問題であるとも言えます. // ``次元'' という言葉の意味が混乱しているようです. 前回と今回で触れた直積行列の話で言えば, (n 次元の) ベクトルは n 個の要素が 1 列 (または 1 行) に並んでいます. その意味では 1 次元です. 一方 (m 行 n 列の) 行列は m×n 個の要素が列方向と行方向の 2 次元に並んでいます. そして (m,p 行 n,q 列の) 直積行列では要素の添字として m,p,n,q の四つの列や行があるという意味で 4 次元と言えるでしょう.

08s3032: 
CO$ _2$ における赤外分光法にて対称に振動している時, 互いの振動のベクトルが打ち消されると考えられるのですが, 実際に完全なスペクトルが得られるのだろうか. またラマン散乱による測定できる条件で IR では測定できないだけということでしょうか. M: とても分かりにくい質問ですね. まず ``互いの振動のベクトルが打ち消される'' とは, どういう意味で言っていますか ? 異なる結合の伸縮 (異なる原子の運動) ですから, 打ち消されて振動しない (原子が運動しない), などということはありません. しかし, 結合の伸縮による双極子モーメントの変化は打ち消され, 対称伸縮振動では分子の双極子モーメントは変化しません. したがって IR 不活性となります. これが現象論的な説明です. // さて次に ``完全なスペクトル'' とは何ですか ? これは全く分かりません. // 最後に ``ラマン散乱による測定できる条件'' という語句も, やっぱり意味がわかりません. 温度とか濃度とかの試料の測定条件の話は, 全く出てこなかったのですけど ??

08s3040: 
分子が $ h \nu$ のエネルギーを吸収して電子が遷移し, $ h \nu'$ のエネルギーを放出して, もとの準位よりも上の準位 (振動準位) に遷移するのはなぜですか ? 吸収するエネルギーよりも放出するエネルギーが小さいのには, どんな要因があるのですか ? M: それがラマン散乱というものです. インド人のラマンさんが発見し, ノーベル賞を受賞しました. ちなみに, エネルギーを吸収して遷移する必要はありません. 初めの準位から $ h \nu$ だけ上の位置に状態が存在しなくてもいいのです. さらに, 始状態が振動励起状態だった場合, 終状態として振動量子数が減る場合もあります. この時は, 散乱光の振動数は増加する (エネルギーが大きくなる) ことになります.

08s3043: 
水分子のような簡単な分子について振動スペクトルを見てきましたが. 結晶になると自由度が減少すると思うのですが, このときは振動スペクトルは観測されないのでしょうか ? M: ここで言っている``自由度'' とは, 動きの大きさではありません. 結晶になれば, 構成粒子の数は膨大になります. すなわち 3N の N が大きくなるので, 自由度は増すと考えられます. しかし実際には, 結晶中での分子の配列にも対称性がありますから, やはり群論的な考察が可能です. この時にあつかう群は, 空間群というものです.

08s3049: 
基準モードが CO$ _2$ が 4 個なのに対して H$ _2$O は 3 個なのはなぜですか ? M: 直線分子と非直線分子とで, 振動の自由度が異なります. 前者は $ 3N-5$, 後者は $ 3N-6$ となります. 実際には, 直線分子では, 分子軸まわりの回転の自由度が無いのです. 分子を構成する原子上に立てた小さな xyz のベクトル (原子の位置の微小変位に相当する) をどのように組み合わせても, 直線分子の分子軸まわりの回転運動を生み出すことはできません.

07s3032: 
交換則が成立する群には「可換群」という名前がついていますが 分子に対称性がある時のように, 分子軌道を計算する上で, 何か「いいこと」はありませんか ? M: 分子軌道法の有名なプログラムである Gaussian の出力を見ると, 分子の属する点群だけでなくて, その点群の部分群として (最大の) アーベル群をも求めています. 何かの役に立つのだろうと推定されます. 可換群は, 一つの対称操作がそれ自身で一つの類をつくるという特徴がありますネ.



Ryo MIYAMOTO, 2010-08-03