分子構造論 (20100616)
M: 以下は宮本のコメント
- 08s3002:
- 群の定義は行列に似ていると思いました. 何か関係はあるのですか ? M: ``群の定義'' が ``行列'' の何に似ているということでしょうか. で, それとは別に, 群と行列とは非常に重要な関係があります. すなわち, ある種の行列の集合が, 乗法に対して群を成しているからです. そしてまた, 対称操作のような ``操作'' を行列で表現することは, 非常にしばしばあることです. そして点群における指標は, 対称操作の表現行列の蹟 (トレース, trace) でもあります. 教科書 § 12.4 参照. 切っても切れない関係 (?)
- 08s3011:
- 核というものは表面をもちますか ? 持っているとしたら, それは何でできていますか ? M: 見覚えのある質問ですね
:-)
電子とは異なり, 原子核はそれ自身で素粒子ではなく内部構造を持っていますから, 表面というものもあるのかもしれませんネ. 核は核子 (陽子と中性子) からできていて, 核子はクオークからできていると考えられています. もしもミクロの世界の人がいたら, 核はどう見えるのでしょうね.
- 08s3017:
-
d は何の鏡映面を表すのですか ? M: 鏡映
には三種類あって, 添え字の v, d, h をつけて区別する場合があります.
- 主軸 C
に対して, それに垂直な鏡映面が
h で, h は horozontal (横, 水平) の意.
- 主軸 C
に対し, それを含む鏡映面が
v で, v は vertical (縦, 直立, 垂直) の意.
いずれも主軸を縦に, z 軸にとる習慣・約束によるのでしょう.
-
d は
v 以外に別の主軸を含む鏡映面があるときに使います. d は diagonal (対角線) の意. 例えば正方形のシクロブタジエンを考えると, 分子面に垂直な C
軸を含む二種類の鏡映面があります. すなわち炭素 C を含む面と C-C 結合を切る面.
別の例では, アルキメデスの逆プリズムという形, 正四角柱で上下の面がねじれた形の場合, 主軸 (C
軸) を含む 4 個の同等な鏡映面しかありませんが, いずれも主軸に垂直な C
を切っているので, この場合は
d と言います.
- 08s3021:
- 色々な対称要素が登場しましたが, それぞれ, 何かの物性値に対応しているのですか. M: すぐに思いつくのは次のとおり. もちろんもっと一般的には, 分子の物性は, その対称性 (属する点群) を反映しています. だから対称性が重要だという話.
- 実はよく考えると, 反転 i は回映軸
と同じであり, 鏡映
は回映軸
と同じです. これを前提に言えば, もしも分子が回映軸
を持っているならば, その分子は反掌性であり (光学活性にならない, アキラル achiral), 持っていないものは掌性である (光学活性になる, キラル chiral). 逆もまた正しい.
- 反転 i をもつ分子の場合, 振動スペクトルにおける相互禁制則が成り立つ. すなわち IR とラマン散乱とでは, 許容遷移として観測される振動が異なる.
以上の C
軸を持つ場合には, 縮重したオービタルや振動モードなど, 物性に縮重が現れる可能性がある. あるいは, ヤーンテラー効果により分子構造に歪みを生じる (歪んで縮退が解ける).
- 同じく C
以上の軸を持つ場合には, 物性値に軸対称性が生じる. 例えば分子の慣性モーメント, 電子常磁性共鳴 (EPR) における g テンソルや A テンソル (超微細相互作用), 等.
- 08s3028:
- E: 恒等操作は何もしない操作でどの分子にもあるというのがよくわからないのですが, どういう意味なのでしょうか. M: 三次元空間内の図形を動かして, 自分自身にピッタリ重ねる操作を考えています. あなたが目隠しをしている間に, 友人が図形を動かしたとしてもそれがわからないような, 目隠しをする前と区別が付かないような, そういう動かし方が, 今考えている操作です.
その中には, 実は動かしていない, 全く触ってもいない, というコトも含まれています.
- 08s3032:
- 対称要素の記号のみで群の位相が 1 つの数字に決定されるでしょうか. M: ``群の位相'' の意味がわかりません.
- 08s3040:
- ππ
遷移が起こると, 有機色素は強い発色を起こしますが, リドベルグ遷移が起こると, どのような現象が見られますか ? また, ππ
遷移などはエネルギーの低い紫外可視スペクトルの領域の話とありますが, リドベルグ遷移はどのエネルギー領域の話にあたるのですか ? M: 授業でもこれ以上詳しく説明するつもりはないので, 理化学辞典 (リュードベリ遷移として載ってる) や専門書で調べてみてください. 『リュードベリ遷移は概して 200 nm より短波長の真空紫外部に現われ,
p の値に収束する.』だそうです.
- 08s3043:
- 分子中に回転可能な結合がある場合, 対称操作はどのようにすればいいのですか ? 宿題の C
H
も, [矢印で分子の絵を指す. 絵は省略.]のように 2 つ考えられるのですが…. 2 通りの対称要素を考えればいいのでしょうか ? M: 私たちが対称性を考えているのは, 三次元空間内にある図形です. もしも分子の内部にメチル基のように可動部分があるとしたら, そこが動くことによって別の図形になってしまいます. もしかしたらそれによって, 異なる対称性になるかもしれません. 分子の対称性を考える場合には, 分子の構造は固定されているものとして考えます. 可動部分が動くことによって別の構造になるのであれば, それはまた別の構造の分子というコトで, あらためて考えなければならないかもしれません.
- 08s3049:
- 対称性がない分子というのは存在しますか ? M: すべての分子は, 必ず対称要素として恒等操作 E を持ちます. 08s3028 も参照. 対称要素として E しか無い分子は, C
という点群に属します.
- 07s3032:
- 交換則が成り立つ可換群であることには何か特別な特徴はありますか ? M: 質問の主旨がよくわからないのですが. まさに可換であることが, 最大の特徴だと思いますけど ?
Ryo MIYAMOTO, 2010-06-17