2   光の性質

 光が主役ですから私達は光そのものについても知識を持たないといけません。そこで光の本性を追求した歴史を簡単に知っておきましょう。

 1.光について 光の本性は本来物理学の範囲に入るのですが,以下にその要点をまとめておきます。

 いうまでなくは地球上の生命にとってかけがえのない存在であり,それだけに古くから注目を集めて来たことが記録に残されております。その不思議な本性をめぐって17世紀後半,光は波であると主張するフック,ホイヘンス等の波動説がまず出されたのに対し,ニュートンは光の粒子説を主張し,以後2つの立場が激しく対立しました。それでも19世紀になると,光の干渉・回折を説明できる波動説が優位に立っていました。ところが19世紀後半,波動説で説明できない光電効果という現象が見い出され,波動説は難点を抱えることになりました。さらにそれに輪をかけたのがいわゆる黒体問題でした。これはある温度に熱せられた物体が放出する光(スペクトル)を原子論的にどう説明するかという問題であって、ここでも波動説は行き詰まったのです。
 これを解決するきっかけをつくったのが,エネルギーにも素量(エネルギー量子)があるとするプランクの量子論でした。さらにプランクの考えを取り入れ,1個の光はエネルギー素量hプランクの定数, νは光の振動数)を持つ粒子であるとして1905年光電効果を見事に説明したのがかのアインシュタインでした。これ以後このようなエネルギー素量を持つ粒子としての光は光量子フォトン)と呼ばれるようになりました。
 この時期の物理学は後に前期量子力学と呼ばれるようになりましたが,その発展はいかにも生き生きと躍動して分かりやすく,化学に携わっている私達にもよく知られた話です。こうして光は一方では疑いもなく波動性を持ち,また他方では疑いもなく粒子性を合わせ持つことになりました。これを光の二重性と呼んでいます。
 このように量子力学の誕生した20世紀になって光の本性は理解されるようになりました。光化学においては,ほとんどの場合光は波動ではなくエネルギーを持った粒子,すなわち光量子として扱うのです。その意味で光化学は20世紀の学問と呼ばれ,何か新鮮な印象を受けたものでした。もっとも今は21世紀,少し言い方を変えなければならないかも知れません。

 2.光の種類とエネルギー 光は波の性質を持ち,その運動の様子は正弦(サイン)曲線で表わされます。波長(記号λ)は繰り返される同一点例えば波の高い所(極大)同士の間隔であり,その単位はnm(=10-7 cm)です。振動数νは単位時間に繰り返される波の数で,周期Tの逆数に相当します。光は波長領域によって紫外線 ultraviolet rays400 nm以下),可視光線 visible rays400800 nm),赤外線 infrared rays800 nm以上)に大きく分類され,さらに紫外線より短波長にはα線,β線,γ線などの放射線が,また赤外線より長波長には電波やマイクロ波があります。

 光量子1個のエネルギーをεとすると,光は波でもありますからその波長, 振動数,光速度c,波数との間には
            cλν  (3)
            (cm-1)1λ(nm)  (4)
            ε=chλ  (5)
             =1.20×105λ(nm)(kJeinstein)
             =1.20×10-2(cm-1)(kJeinstein)
の関係があります。従ってこれらの式から分るように光のエネルギーは波長によって変わり,赤外線のような長波長(低振動数あるいは低波数)領域の光ほどエネルギーが小さく,紫外線のように短波長の光ほどエネルギーが大きくなります。例えば500nmの光=240(kJeinstein)300nmの光=400(kJeinstein)。ここで1 アインシュタイン(einstein)はアボガドロ数個の光量子の単位をいい,1モルの物質量に相当します。